カナダ大使館に於いてのスピーチ --- 渋谷・道玄坂 中国針治療所

2003/05/15 於 カナダ大使館



 只今は吉田様(大正製薬株式会社)よりご丁重なご紹介を賜り有り難うございます。本日ここで皆様方に針治療についてのお話をさせて頂く機会を得られましたことを大変光栄に思っております。

 まず始めに針治療の原理について7~8分お話をさせていただき、その後針治療の成り立ちについてのお話を15分程度、そして最後に皆様からのご質問をお伺いする前に現在私の計画中のプランについても少しお話をさせて頂きたいと思っております。

 本日こちらにお集まり頂いた方々の中にはまだ針治療の経験のない方もいらっしゃると思いますが、すでに、経験された方も多くいらっしゃることと思います。ではすでに経験された方は挙手いただければ……

“ハイ”ではその中で、「定期的に針治療を受けておられる方はいらっしゃいますか?」
こう私がお聞きしますと何故定期的な針治療が必要なのか?と思われるでしょう。

 その必要性とは、自分自身の力(エネルギー)で充分な充電(体力回復機能)が得られない状態にある場合針治療を必要とするのです。例えば現在、継続的なストレス(睡眠不足、不規則な食事、悪循環となる生活習慣精神的悩みからの情緒不安定な状態等)を受けている場合や、過去に二次的・三次的トラブルを起し、ご自分の治癒力だけでは回復できなくなっている場合、又、他の例として西洋医学的な治療を受けてはいるが、充分な体力の回復が得られず症状は軽くなったものの改善が見られない等、自然治癒力が効率良く働かない場合、又、加齢による体力低下を補うためにも定期的に針治療を受けることは健康で、クオリティーの高い生活を維持するために有効な方法です。

 又、定期的な治療でなくても、急性・慢性の痛みや麻痺の進行を食い止め改善させ伝染病を除くあらゆる症状を緩和し、治癒させる方法としてもその威力は多大なものであることは言うまでもありません。

 ではまずは針治療の原理についてお話をしましょう。我々の身体には本来自然治癒力が備わっていることは誰でもご承知の通りです。又、我々の脳はその病気(疾病)の程度、ケガの大小によってその場所へと供給する自然治癒力の量をも自ずと調節しているのです。

 すなわち重度(重篤)な病気や怪我をした場合は最大限の自然治癒力をその場へと送り、又軽度であればその必要量に見合った自然治癒力をその部位に供給するのです。
どういうことかというと、病気、ケガが軽度であれば他の機能を低下させることなくその部位を治すことをまず優先し、全体的に体力回復へと向かわせます。

 しかし、重度な病気やケガの場合、他の機能を一時的に低下させてもその状況に対処しないとより重大な結果になると脳は考えるからです。

 例えば、ここにAさんという人がいます。彼は腰痛を訴え針治療に来られました。そして問診後、治療台に上り、横になりました。彼自身は今針治療を受けていることを認識しているわけですが、彼の脳は痛みのある腰の部位に新たに針治療を施されたことにより、
その刺激によって外傷を受けたと認識するのです。

 その場合、針のサイズが太い方がより大きな外傷を受けたと脳が判断し大きい自然治癒力を供給していることは前段で説明した通りです。もちろん彼が腰痛を感じ始めたときからそのダメージに相当な本来の自然治癒力が働いているのですが、針による刺激を受けたことにより、増幅されたダメージサインが脳に伝わり更に、より大きな自然治癒力を腰痛のある部位へと供給される仕組みです。

 それにより一早くあらゆる症状を緩和、改善し治療へと導くことが出来るのです。それを30余年の経験の中で編み出し、より確かなものとして今後広く伝えていく責任が私にはあります。

 しかし、残念なことに針治療は痛くて原始的なまたは、時代遅れの治療方法と思われています。ですが、その利益と損失を考えるとその利益の大きさに驚かれることでしょう。針治療の痛みの度合いは最小では蚊に刺された程度の痛みで、ある時は感じある時はわからない程度であり、また最大の痛みの度合としても採血や点滴時に使用する針を刺す程度の痛みにとどまります。

 もし、針の“痛さ”にのみこだわりすぎて、ほとんど痛みを感じない細い針を使用して治療に当れば、おそらく脳はその刺激をほとんど認めず、従って自然治癒力を増幅させることが出来ず、良好な結果へと導くことが出来なくなります。

 針のサイズの選択については、個人々皮膚の痛みに対する感覚の相異を考慮し、その都度治療に際し支障なく治療出来る針のサイズを選択し、我々治療家は治療を進めていく必要があります。

 例えば患者さんが「これくらいならまるで蚊に刺された程度だ。もう少し針のサイズを太いものに変えても大丈夫!」と言われるならば、より上の(太いもの)サイズに変更し、治療的により大きい自然治癒力を供給出来る条件が整うわけです。

 又、針治療は痛みや症状のある所へのみ刺針するのではなくリモートコントロール(遠隔操作)のように遠く離れた穴(ツボ)に針を刺して痛みや症状を止める方法や、単独または複数のツボを使用し機能の低下した臓器や器官を副作用なしに短期間で回復させることが可能です。

 以前下記のような実験をなさった先生方がいます。
それは慢性的に胃の働きが低下した患者さんにバリウムを飲んでもらい
その動きをモニター観察し、後に足の三里と言うツボに太目の針を刺すと
2~3秒の内に胃の動きが活発化するのをバリウムの動きを見て知り
彼ら自身その反応と機能回復の早さに驚いた。
と言うことは我々針治療を行うものにとっては有名な話として残されています。
この実験結果により、針治療による胃の機能回復速度は
西洋医学的な如何なる方法よりも即効性のあることが
部分的ではありますが証明されたわけです。
すなわち、針師が適切なツボに適切な刺激量を与えて治療に当たれば、
弱った臓器の機能や症状の回復を短期間で再生することが出来るのです。
前段でお話した通り針の太さ(サイズ)又、ツボの選択は直接結果に結びつき
その患者さんの状態を診ながら瞬時に適切な針の選択をすることが
針師の判断能力にかかっていることも当然です。
そして治癒に向かわせるために出来るだけ無理のない生活態度を
求められることも忘れてはなりません。いわゆる患者さんと治療家と
二人三脚として進めて行かねば良好な治療成績が望めないからです。

 それでは2番目の、針治療の発達の経緯、成り立ちについてお話をしましょう。
我々の先祖が二本足で歩き始めて以来、幾多もの疾病やケガを経験し
それにより自然から多くの処置法を学び
また多くの突発的に起こった事故や怪我によってもそれらを改善する
治療のヒントをその自然、また成り行きの中から学んだのです。

 例えばここにMr.Jonesさんがいます。
彼は痛みを伴う慢性胃炎のため、しばしば掛かりつけの医者を受診していました。
ところがある時、戦争に駆り出され、膝下に敵方の矢が刺さり外傷を負いました。
治るまでには少し時間が掛かりましたが、その外傷が治ると不思議と
胃痛を訴えなくなっていた。皆さんには先ほどご説明をしたバリウムを飲み
足の三里と言うツボに針を刺した話を思い出して頂ければ充分です。

 また別の例として、ここではそのMr.Jonesさんのご先祖としましょう。
時代は石器時代。まだ鉄が出来る以前のことです。
彼もまた、いつも胃炎を抱えていました。
ある時その痛みが通常のレベル以上に強くなり苦しみの中で彼は考えたのです。
『いつも爪で痛いところをギューッと押していると痛みが楽になる。
ならば、もっと強い刺激を与えられるものでその部位を押したらどうだろう…』と。
そして家族のものにヤジリの先でその部位を押してもらい
結果、皮膚は軽く傷ついたものの胃痛は緩和し
その後、彼はしばしばその行為を行い、いつしか良好な状態になっていた。

 その後、何千年後Mr.Jonesの子孫、Mr.Jonesの登場。
時代はすでに鉄器時代、テントの中、煙立ち込め、焚き火の近くに横たわる
ミスタージョーンズ。実は彼も慢性の胃潰瘍で苦しんでいる。
『きっとこの痛い所へ自分達の使っている釘(大工さんの使用するものを
想像してください。鉄器時代とは言え、当時針治療の針のようなものを作る
技術・方法はまだ発明されていなかった時代です)を刺せばこの苦痛が
和らぐのでは…どうにか少しでも苦痛から逃れられるものならば…』と。
そこで家族のものに釘を焼いてもらい、温度の低下したところで
彼の指示した部位へ釘をグイーッと深く刺した。
すると本来彼はその釘を刺したことによる痛みに悲鳴をあげると思われたが
意に反し、彼の口からは安堵のため息洩れた。
同時に少量の出血はあったがその傷が癒える頃には
胃痛を感じることはなくなっていた。


<私の解説>
 釘(針)がその部位に到達した時、脳は第二の外傷を受けたと感じ、新たにより強力な自然治癒力を供給することにより痛みが緩和し、また釘の傷跡を治すためにも長期間にわたり強力な自然治癒力がその潰瘍部位へと供給されたためと考える。

 私が子供の頃(40~50年前)銭湯へ行くと背中に大きなお灸の跡のある年配の人をよく見かけたものです。そのタイプのお灸は虚弱体質の人や病中・病後、体力低下を感じる人に行われ長い間(怖らく何千年も)副作用なしに体力回復法として日常活用されてきました。
 事実、東洋医学的見地からしてもお灸は著しく白血球が増加するため、お灸の跡が癒えるまで長期的に強力な自然治癒力が働き、個々の症状・病気を区別することなく、体全体を丈夫にし、自然治癒力をより効率よく発揮させる適切な方法に間違いありません。

 しかし今は21世紀。出来れば皮膚にあのような灸跡を残さず、同様の効果を認められる治療法の出現を期待しています。

 以上のようなことを例に挙げれば限りがありませんがこのような多くの経験からの情報を村同士で交換し合ったりして徐々に蓄積され“知恵袋”として伝承されてきたのでしょう。

 そしてある日、中国の皇帝は彼の医師団に知恵袋を集めさせ針治療の知識や薬草や鉱物、動物の臓器の効用等の文献をまとめ上げさせました。

 また、我々はここ100年、西洋医学の恩恵を受け伝染病の恐怖から開放されたり、めざましい外科手術の発達により以前では助からなかった病気からも救命されたことも事実です。

 それと同時に、あまりにも多くの西洋医学による利益を見せ付けられてしまったために我々の先祖から伝承されてきた本来西洋医学では得意とされない病気でさえも西洋医学のお医者様に治させようとしている昨今です。

 しかし幸運なことに我々は21世紀に生きているのですから、先祖が二本足歩行を開始して以来の多くの経験の上に成り立つ知識と現代の先端医療の優れた部分を双方取捨選択して健康で快適な生活を送る権利を持っているのです。

 例えば女性がファッション雑誌で気に入ったヘアスタイルを見つけ、その部分を切り取り、床屋さんへ行きオーダーしても、彼らにとってはなかなか難しい注文です。しかし、美容室へと行けばそのヘアスタイルに近づくことは床屋へ行くよりも近道なのです。

 患者さんが医者に掛かる時も同様で、最新の設備の整った病院でアメリカやヨーロッパから勉強して、最近帰国したDr.がその最新の技術を以って治療にあたれば、『何処へ行っても治らなかった病気も治してくれる』…そんな夢を持つ患者さんも少なくないでしょう。

 しかし事実は美容室と床屋さんの例えのように(餅屋は餅屋)があるのです。針治療単独で治るもの、針治療と漢方薬により治療せしめるもの、西洋医学的な治療が優れるもの、又は、針治療を西洋医学の治療法を組み合わせる方法です。

 事実、前段の話のように、臓器の機能を回復させるために針治療を行いながら薬を投与すれば、薬の吸収効率を格段に上昇させまた副作用の危険性も低くなります。

 私の話に眉をひそめている方もいらっしゃることと思います。

 もう一度言わせてください。

 19世紀多くの人々は様々な伝染病から命を落としました。一時的に回復はしても最終的には残念な結果になってしまった例も未知数です。それはまだワクチンが発明されていなかったからです。

 また、宗教的な理由であり解剖学の発達が遅れたため簡単な手術さえ受けることが出来ず、命を落とされた数も計り知れないでしょう。

 針治療はワクチンや外科手術の代わりとなることは出来ません。しかし、外科手術や、化学療法などを受けて、体力の低下した状態をいち早く回復させる力を供給することは可能です。

 現在はあまりに西洋医学が発展しすぎたために長い間伝承されてきた東洋医学が忘れ去られています。そして、わずか100年前までは病人は当たり前に針治療を受け
痛み、しびれ、麻痺、痒み等の症状に対する治療や弱った臓器の機能を上昇させ、又、食物(薬を含む)の吸収効率を上げる方法を行っていました。

 ところが現代はどうでしょう。病人の吸収効率の低下した体に薬や補助食品などを摂らせているだけなのです。針治療は直接弱った臓器の機能を回復させ且つ副作用の全くない治療法です。西洋医学の治療を受けながら、たくさんの薬を飲みながらなかなか症状の改善が見られない場合、残念ながら難治性の病気に見舞われてしまった場合、針治療の存在を思い出してください。

 大分眠くなってきていると思いますが、モーチョットだけ頑張って下さい。

 現在、私はアメリカの針灸免許資格者の2年毎の免許更新講習会の講師の職にあり、更新者は30時間の受講を義務付けられています。私の30余年の経験(治療回数230,000回以上)から築き上げたこの地球(ホシ)で一番の針治療法を(少なくとも私はそう信じています)自分の講習会でやって、見せて、やってもらうワークシップ型の従来にはない講習会に集まった人がすぐに自らの治療に取り入れられるものを教えていこうと思っています。

 そしてそれがいずれ、必ずや世界の針治療の基本となることを信じています。

 では何故アメリカなのか…?

 アメリカの針灸師は半分が西洋医学の開業医で後に針灸学校へと通った人達です。又、半分は大学や専門学校卒業後、針灸学校で学び卒業後、各州で行う試験に合格した人達です。いわゆる東洋医学と西洋医学が同じ土俵の上で評価される土壌がそこにはあるのです。現在針治療が今まで西洋医学の不得意とされてきた分野を克服し、評価され始めています。

 アメリカでの針治療の成功は全世界に普及し、やがて日本も追従せざるを得なくなるでしょう。その時こそ『真の針治療』の夜明けがこの国にもやってくるでしょう。

 私の30余年の経験の中で編み出し、体験してきた従来の針治療とは異なる本当の(真の)針治療が今まで屈していた病気の壁を破ります。

 私はそう信じて疑いません。

 さぁ、ではご質問をどうぞ! 30分間私の話をお聞き頂いたあなたの番です。
素晴らしい答えは出来ないかもしれませんが精一杯お答えしましょう。

2003/05/15 於 カナダ大使館